中学生野球少年の保護者の方から、
「汗をかくとアトピー性皮膚炎が悪化するので部活動をやめさせたい」という相談を受けたことがあります。
5~7才の2年間も地元のキッズサッカーチームに入って大活躍したということですから、もともと身体を動かすことが大好きな少年なのだと思います。
サッカーチームにいた時も、スポーツでたくさん汗をかいたあとは皮膚が真っ赤に腫れたり、就寝後も身体をかきむしるので体中が傷だらけだったそうです。
小さい頃は、子ども自身の生活時間にゆとりがあったので、親は大変だったけれど何度も何度もシャワーを浴びさせ、寝る前は体の芯に熱が残らないように親が見守りながら風を当てたり氷枕をして就寝を助けていました。
それで2年間サッカーを続けることができたけれど、それを支える親の方が体力的につらくてサッカーをやめさせたということでした。
中学生になって親に相談せず野球部に入り、相変わらず汗をかくと赤くはれたり、かきむしったり、夜眠れなかったり、大変な思いをしている、その様子を黙って見ていられないとお母さんは電話口で泣いていました。
小さい頃なら何から何まで親が面倒を見ることができたけれど、中学生男子に風呂や就寝のことをサポートしてやれないので、
「汗をかいたらすぐシャワーを浴びなさい」「薬を塗りなさい」「部活動はやめた方がいい」とただうるさく言うことになり、
「うるさいなあ」「やってるよ」と息子はいら立ちを募らせ、親子の空気は日々悪化しているのが、お母さんの今一番つらいことのようでした。
息子さん自身の様子を聞くと、部活動がない日は皮膚が赤くはれたりすることは無いので、痒くてイライラすることもなく、そういう時を見計らって「どうしても部活動を続けたいの?」と質問すると、
「友達ができて毎日楽しい」「練習はきついけど上達するのがうれしい」という返事が返ってくるのだそうです。
親からうるさく言われたくないせいか、皮膚のことについては何も言わないし、そこに触れようとするとプイといなくなってしまうので、肝心なことが話せていないようでした。
中学生から高校の時期に友人との絆をつくることや、一つの目標に向かって取り組む経験をすることは何物にも代えがたく、身体の基礎を作れるのもこの頃ではないかと思います。
皮膚の状況を改善させること(治癒すること)と心の発達とどちらが大切かという問いに明快に答えられる人はいないのではないかと思います。
どちらが大切か、人によって価値観は違うものだからです。
子どもはいつか成長し、親が知らないうちに「価値の選択」に踏み出しているのかもしれません。
部活動をやめる、やめないという話ではなく、お母さんの悩みを聞く時間を30分だけもらえないかと声をかけ、あなたの成長期に立ち会えることがとても楽しくて幸せなことなんだと伝えてから、友達とすごすこと、練習、身体の成長の全てが好ましいと感じていることをまず伝え、でも皮膚のことが心配、眠れないことは成長期にとってあまりいいことではない、お母さんは不安な気持ちでいっぱい、それであなた自身が皮膚の悪化や治療についてどんな風に考えているのか知りたい、少しでも良くなる道を考えたいということを、冷静に静かな環境で話すことをお勧めしました。
その話し合いがうまくいったとしても、お母さんが思った通り息子さんが部活動をやめることになるとは限りません。でも息子さんにはお母さんが真剣に心配していることが伝わりますし、自分でケアしようという自覚が生まれるかもしれません。
ケアは自分でやる意思があることがとても大切なので、そこにたどり着くだけでも一歩前進です。