30代の頃、内科の治療のために定期的に出されていた処方薬が突然身体にあわなくなって、薬疹が出たことがありました。
この「薬疹」は正確に言うと身体にあったあらゆる傷口から一斉に浸出液が出て、慌てて皮膚科に行ったときにそういわれたものでした。
薬を処方した医師が副作用情報として通報しようとすると、皮膚科医は「自家中毒」の間違いだったと言い出し、本当の原因はわからずじまいになりました。
ところで、体中の傷口というのは、毎年夏、蚊に刺されてできた虫刺され後とか、ビタミン不足でできた指先のささくれとか、郵便物の封を開ける時に紙で切ってしまった指先の傷などのことです。
「薬疹は薬の影響が無くなれば2~3日で消えます。長くても1週間我慢すれば治る」と皮膚科に言われましたが、それからほぼ1年間、ちょっとしたカサつきや自分の爪の先でひっかいてしまった傷とも言えないダメージがあった場所までも浸出液が出てくるようになってしまいました。
ある時、友達と会食して脂っこいものを食べてしまった翌日、頬と口のあたりに吹き出物ができたと思ったら、数時間後には顔半分が浸出液だらけになってしまったことがありました。
顔に張り付いた液はすぐに固まるのですが、これを無理してはがすとかぶれが広がってしまうので、さらに固まって自然に取れるまで、そのままの状態にして出かけました。
いつものように電車に乗りシートに座っていたのですが、いつもより何かが違う感じがして周りを見渡すと、沢山の人と目があってしまうのです。満員電車なのに私の席の前だけ人が立っておらず、少しの間何が起こっているのかわかりませんでした。
職場に着く頃までにたどり着いた結論は、「周りの人は私の顔を見ていたのだ」ということと「何かのよくない病気だと思い、移るのを恐れて側に立たないようにしたのかもしれない」ということでした。
子どものアトピー性皮膚炎で学んだことは「網包帯でもう1枚の皮膚のようにカバーするとかゆみが落ち着く」というものでしたが、「顔は何かで覆うとかえって張り付いて痛い」という学びもありました。
自分では早く治すために、痛くならないように風に当てているような気分だったのですが、人には奇異に映ったようでした。自分の頬に張り付いた浸出液をじっと見てみると、確かに相当気持ち悪い感じはしましたが、だからと言って隠せるような場所ではないし、ガーゼなどで覆えば乾くのに時間がかかってしまう。そもそも絆創膏にかぶれる体質なので、ガーゼを当ててもそれを止める方法がありません。
最初の頃は心が折れそうになったのですが「知らない人の評価を気にしてどうする!」とある時吹っ切れることができました。
思春期に差し掛かった子どもたちが顔に症状がでて「気持ち悪い」「マスクで顔を隠すのがエチケットだ」と言われたと苦しそうに打ち明けてくれることがあります。
悲しいと訴える若い人の経験を聞いていると、中には「親切な人」の立場に立って「症状が出ている部分を隠せば誰も文句を言わなくなるから上手に隠しなさい」という人もいるようです。
顔をじっと見られることや、遠巻きにされることは、多感な時期の子どもたちにとってとても過酷なことだと思います。
でもそれ以上に傷ついているのが、マスクで顔を隠せと勧める友人や家族、担任の先生の言葉でした。
つらい症状のある人が、「健康な人」の立場にあわせて行動する必要などないはずです。
他人の美意識に付き合う必要はないのだと子どもたちが気づき、自分の言葉でそれを言えるようになるには時間がかかります。
子どもたちのそばにいてそれを待てる大人でいたいと思います。